江城日誌・慶応4年15号

江城日誌 第十五号
慶応四戊辰年五月

五月三十日
○奥州出張長藩より届書之写
一、五月廿五日之戦状
前日より近辺賊兵屯集の由報知有之、地理研究巡邏旁三藩申合、二十人計宛、兵隊差出し、根田通り大田川ニ至り、敵兵百計屯集いたし居候ニ付、暫時ニ撃破り、村中焼払帰営す、三番隊は別に鹿島口より出、本沼口ニ向ふ、同所より五六町手前、叢樹の中ニ、敵兵五六十許潜伏いたし、不意ニ左右より撃出す、我兵直ちニ散開、当戦二時斗、敵兵追々繰出し、味方勿論巡邏之儀ニ付、二十人余而已にて突入、村中之賊を追払、村内賊屯集いたし居候民家焼払、鎗其外少々之武器分取帰営仕候、其節弊藩戦死一人、手負一人而已にて、賊兵手負死人十五六人ハ可有之、現ニ残し置候死骸五ツ御座候以上
戦死 北野武熊
手負 岡八十吉
一、同廿六日之戦状
五字三点頃、棚倉道、湯本道両道より賊兵襲来、此頃弊藩棚倉道、鹿島道両道を守る二番隊ハ棚倉口を守り、三番隊ハ鹿島口を守る、二番隊直様押出し棚倉口ニ戦ふ、同刻鹿島口へも敵兵二手ニ分れ襲来、三番隊是に当る、奥州道、金正寺道、原街道白坂へも両道より襲来る、八道共悉激戦、砲声地を轟し、万雷の急撃するが如し、此時棚倉口へも賊二タ手に分れ、一は本道より来り、一ハ大沼脇より来る、賊大砲三門を大沼脇ニ出し烈しく砲撃、我兵左手より大砲隊を目掛ケ、盛ニ進撃、薩二番隊、応援として右より出づ、賊支へ兼、大砲三門を置て走る、又進で小銃隊ニ当り激戦、終ニ一字三点頃賊兵遁走る、三番隊ハ、同刻より鹿島口の賊ニ当り、盛ニ奮戦、賊二大隊余来り、味方僅八九十人、衆寡不敵、余程苦戦ニ相成、二番隊ニ援兵を乞、此時二番隊も小勢を以大勢を引受、随分苦戦中の事故、差出す兵員無之、雖然実ニ苦戦ニ而、援兵を乞候事故、大炮隊を出し是を助く、十二字頃戦最烈しく、我兵最苦戦、此時幸ニ大雨降落、我兵本込銃ニ而、賊ハ口込、其外火縄銃抔の事故、銃多くは発せす我兵勢を得、盛ニ突入、賊兵追々浮足ニ相成、三字頃二番隊よりも少々兵具差出し、終ニ五字頃悉賊兵追払候、此時両道共、賊死人手負多人数可有之、弊藩即死一人、手負四人而已ニ御座候
即死 村田鹿之助
手負 草刈孫市
同 佐子九郎兵衛
同 吉井栄作
同 宮五郎
手負 夫卒 栄助
一、同廿七日之戦状
七字一点頃、棚倉口、鹿島口両道共賊兵襲来、二番隊ハ棚倉口ニ而当戦、三番隊ハ鹿島口ニ出、賊兵ニ当る、此時賊兵一大隊計二タ手ニ分れ襲来、土平一小隊余為応援来り戦ふ、十二字二三点頃賊兵を追払ふ、此日賊死人、手負等少々可有之、現ニ残し置候死骸三ツ、棚倉口へも一大隊計

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江城日誌15 明治文庫画像使用

襲来候得共暫時ニ追払候弊藩手負死人等無之候此日金正寺口一字頃より八字項迠頗る激戦薩土大垣当之
一同廿八日之戦状
六字四点頃棚倉鹿島両道共賊兵襲来此日棚倉口最烈しく前々日より連日之戦にて少々疲れ居本隊繰出すこと少く遅し斥候隊是に当
り頗る苦戦無間本隊操出し十一字二三点頃賊兵悉く追払ひ進で新合度村を焼賊死骸五ツを残し置き走る我兵帰営す一字頃又々敵兵

襲来暫時斥候隊を以て当之本隊操出し暫く戦ひ終ニ追払四字頃帰営す八字頃又々賊兵襲来本隊繰出し暫時ニ追払此日一昼夜にて棚倉口三戦いたし随分激戦鹿島口へも三度襲
来本隊三度繰出し戦争す棚倉口ニて比すれバ大ニ軽し
一忍藩二小隊弊藩兵隊同行初戦岩井以来幣藩人数同樣每戦出張戦争致し候
一同廿九日
夜十字頂斥候隊見張所へ賊兵少々突来り手

5お

負二人有之
手頁
矢野助七
佐々木正三郎
同晦日
夜中鹿島口見張所先へ少々賊兵来り篝火の番兵を襲ふ即時ニ追払ふ
六月朔日

前夜篝火の番兵を襲ひしを慍り三番隊二十人巡邏として根田村迠至る正ニ進んで泉田ニ至んとす賊往還左右ニ炮台を築き備へ居候

5う

斥候の者一両人を遣し候処賊小勢の様相見候故二十人申合せ進で炮台前ニ至り戦ふ賊不計大勢来り四方より迫る我兵頗る苦戦勿論
巡邏の事故正ニ引取んとする時薩土大垣の兵隊少々宛来り合せ又々替り合ひ戦候得
共賊兵大勢之事故引揚帰営仕候此日賊死人多分ニ有るべく弊藩死人一人手負二人ニ御座候
手負
山県省三
福島一松

6お

松田清蔵
右器械掛りの者故遅刻戦地ニ
出候処本隊と行違ひ決メ戦死
仕候哉今以帰営不仕候
手負 夫卒一人

一六月十二日之戦状
三字三点項棚倉口に当り一声の号炮を発す

勿論未明の事故斥候差出候処敵兵弥襲来の由報知す直様本隊繰り出す此項鹿島口ハ薩藩多勢の事故彼藩ニ譲り弊藩棚倉口一道を

6う

守る戦頗る烈しく須更ニして鹿島口奥州口金正寺口湯木口原口白坂合せて七道より賊大挙襲来棚倉口へハ賊二大隊余三手ニ分れ一ハ山上より一ハ本道一ハ大沼脇より来る
我兵忍潘申合せ五六手と分れ或ハ渓間或ハ
樵道或ハ本道或ハ叢樹の中を潜り一ハ前より炮撃し一ハ背面より炮撃す賊周章狼狽大炮
一門小銃十五六挺死骸八ツ手負一人を残し
置き敗走す我兵頻りニ勝たと呼び進で大炮
小銃を分取り手負一人を斬首し無疵の一賊

7お

を擒とし益進ミ戦ふ賊遁走恰も蜘子の散乱するが如し十二字四点凱陣す
手負 溝部千吉
右先月廿五日より今十二日迠之戦状御届上候
長藩
楢崎頼三
口羽兵部
梨羽戈吉
原田良八