太政官日誌・明治2年84号

太政官日誌 明治二年 第八十四号
明治己巳 七月廿七日
東京城第四十七
○七月二十七日〈乙未〉

民部省規則
一、民政ハ治国ノ大本、最モ至重ノ事トス、謹而御誓文ニ基キ、至仁ノ御趣意ヲ奉体シ、府藩県ト戮力協心、教化ヲ広クシ、風俗ヲ敦クシ、生業ヲ奨勧シ、撫育ノ術ヲ尽シ、賑済ノ備ヲ設ケ、上下ノ情ヲ貫通シ、以テ衆庶ヲシテ可令安堵事
一、在職ノ面々、懇切ニ相輔助勉励シ、長官ノ指揮違背ス可ラズ、尤官等ノ高下ヲ論セズ、所存ノ事件ハ、無忌憚公正商議スベシ其下ニ号令スル、必ズ始ヲ慎ミ、聊カ民ニ信ヲ失ハザルヲ緊要トス、故ニ永世ノ規則ヲ創立シ、或ハ従前ノ法制ヲ改正スルハ、審ニ風土民情ヲ察シ、篤ク利害得失ヲ考ヘ其地方ノ衆議ヲ尽シ、御発令ニ可相成事ト雖トモ、民心ニ関係スベキ儀ハ、無伏蔵可言上事
一、賞罰ヲ明ニシ、勧懲ノ道ヲ立ルハ、地方官ノ要務タリト雖モ、其伺ヒ出ル所ハ、宜シク事実ヲ詳ニシ、煩濫ナカラシムベキ事
一、節義、篤行、最モ衆庶ノ模範ト成ベキ者ハ、本省ニ於テ之ヲ賞シ、其事蹟ヲ旌表ス可キ事
一、郡国ノ地図、戸口、名籍ヲ詳明ニシ、兼テ租税ノ多寡ヲ知ルベキ事
一、府藩県ニ於テ断シ難キ訟ハ、審ニ其事実ヲ糾シ、能ク其情状ヲ吐露セシメ、毫モ壅蔽寃枉ナキ様、公平ニ裁断ス可キ事
一、堤防、橋梁、道路等、土木ノ事怠ル可ラズ、府藩県管轄地所、修繕ノ儀、伺出候ハヾ、可否詮議ノ上、府藩県ニ委任施行ス可シ、堀割、分水等、新ニ水利ヲ興シ、又ハ利根、澱、信濃、天竜等ノ大河、管轄交互スル治河等ハ、時宜ニ因リ、役員ヲ遣シ、其地方官ト戮力施行ス可キ事
一、駅逓人馬ノ制度、賃銭増減等、総テ其駅村ノ貧富、戸口ノ多寡等ヲ熟知シ、当時ノ米価ヲ比較シテ、公平ニ相定ムベシ、府藩県ニ指揮スルハ、本省ノ任ニシテ、施行スルハ府藩県ノ職務タリ、総テ下民ノ疾苦ヲ厭ヒ、旅人ノ通行ヲ便ナラシムベキ事
一、田畑ヲ培養シ、山野河海ノ利ヲ興シ、種樹、牧牛馬等、総テ生産ヲ繁殖シ、以テ富国ノ道ヲ開成スベキ事
一、重大ノ事件ハ、本省決議ノ上、更ニ天裁ヲ仰ク可シ、其余御委任ノ事
一、奏聞ヲ経テ可施行事件ハ、太政官ノ布告ヲ請フ可シ、其他ハ本省ニ於テ、布令ス可ヘキ事
一、太政官ヘ伺出等ハ、卿輔ノ専務トス、病気或ハ不参等ノ節ハ、丞ノ取計、格別タルベキ事
一、丞ハ省事ヲ糾判スル定例ノ外、重事件ハ決ヲ卿輔ニ取ル可シ、正ハ司中委任スル定例ノ外、重事件ハ決ヲ丞以上ニ取ルベシ、尢定例中ノ事ト雖モ、重大ノ事件ハ、卿輔ニ達ス可シ、且正病気不参ノ節ハ、司ノ庶務、決ヲ本省ノ丞ニ取ル可キ事
一、第十字参仕、第十二字迄前日調ベ置ノ事務ヲ決断シ、第十二字ヨリ第二字退出ニ至ル迄、当日ノ事務ヲ取調ベ置ベシ、当省ノ諸府藩県ノ民政ヲ総判シ、遠路往復ノ事ニ付、必凝滞ナキヲ要ス、尤モ至重ノ事件ハ時日定限ニ非ザル事
一、諸有司、音物贈答、最モ厳禁トス、毫モ依怙偏頗ノ処置有ルベカラス、且府藩県ヘ出張ノ節、総テ尊大ノ弊ヲ除キ、軽装ヲ主トシ、宿料、賃銭等払ヒ遣シ、下民ノ疾苦トナラザル様致スベシ、御用筋ニ依リ、道案内一両人ハ格別、所役人ニ送迎セシメ、権威ヲ振ヒ、或ハ賄賂ヲ受ル等ノ事、一切厳禁タルベシ、陪従ニ至ル迄、厳密ニ心ヲ着ク可キ事
一、同僚中、如何敷所業見聞ノ節ハ、相互ニ忠告シ、甚キニ至テハ、長官ヘ訟出可キ事
右之条々可相守者也

県官人員幷常備金規則
一、官員
知県事一人
参事一人
但、大少ノ官階ハ、人材ニ従テ之ヲ定ム
大属〈内三人権〉 四人
少属〈内二人権〉 四人
史生三人
捕亡五人
総十八人
右十万石高目安
一、官員ヲ定ムル、高五万石マテハ、万石ニ付二人トス、六万石余ヨリ十万石ニ至ル迄ハ、更ニ万石ニ付一人五分加入ス、乃チ高十万石ナレバ、五万石官員十人ヘ合シ、総計十八人トス、十一万以上二十万石迄ハ、更ニ万石ニ付一人ヲ加入ス、前ノ十八人ニ合シテ二十八員トス、惣シテ官員ノ増減ハ前文目安ニ依テ属捕亡ヲ以テ、相当コレヲ定ムベシ
県掌二人
使部二人
一、県掌使部ハ、石ノ多寡ニ不拘、定員ノ通タルベシ、尢モ出張所アレバ、格別ニ置ク不苦候事
一、総官員中、十万石迄ハ、参事一人タルベシ、十一万石余二十万石迄ハ、大参事一人少参事一人ヲ置クベシ、二十一万石余三十万石迄ハ、大参事一人、少参事二人ヲ置クベシ、三十一万石余ハ、大参事二人、少参事二人ヲ置クベシ、尤開港所管轄ハ、石ノ多寡ニ不拘、参事一人ヲ加入シ、外国ノ事務ヲ専勤スベシ、其他開港事件ニ関係スル官員ハ、別ニ加入スベキ事
一、常備金
金六百両 一万石ニ付金百二十両宛
金二千両 一万石ニ付金四百両宛
総二千六百両
右五万石高目安
一、県舎ノ諸費、其他諸官員巡按ノ入費幷県掌以下ノ月給等、遣払ハ高五万石迄ハ、一万石ニ付金百二十両、乃チ六百両トス、六万石以上十万石迄ハ、万石ニ付百両ツヽ、十一万石以上ハ万石ニ付五十両、二十万石ナレバ、前ニ合シテ千六百両トス、惣シテ目安ヲ以テ照準スベキ事
一、県中年々常費五万石迄ハ、一万石ニ付金四百両、乃チ二千両トス、六万石ヨリ十万石迄ハ万石ニ付二百両、十一万石ヨリ二十一万石迄ハ、万石ニ付百五十両、前ニ合シテ四千五百両トス、惣シテ目安ニ依リ、兼テ県舎ニ備置キ、其事ノ緩急ニ従テ、取計済ノ上、明細書ヲ以テ可相達、但シ制外ノ事件ハ、其時々民部、大蔵両省ヘ可伺出事
一、県舎官員居宅幷牢屋創立等、臨時費用ハ常備之例ニ非ス、三分之一ヲ官給シ、自余ハ管轄ノ石高ニ分課スベシ、尢官員之居宅取繕等ハ可為自費事

〇校正
既ニ刊行スル第六十号、八葉ノ前面、松平大学頭ヘノ御沙汰書ニ、賊地ニ介在スト雖モ隠然方向ヲ定メトアルハ、小藩ヲ以、賊地ニ介在スト雖モ、陰ニ方向ヲ定メ、ノ誤ナリ