太政官日誌 明治二年 第九十五号
明治己巳 自九月二日 至八日
東京城第五十八
○九月二日〈庚午〉
【京師大学校御建替ノ事】
御沙汰書写
留守長官
一、京師大学校御建替ニ付皇学所、漢学所当分御廃之事
一、是迄之御用掛リ、不残被免候事
一、是迄皇学所祭典執行之学神、一ト先神祇官ヘ返座之事
一、学神追テ神祇官ヨリ可被渡候事
一、学政向小事ハ、長官専決可致、重事ハ伺之上可取行事
【会津降人北海ヘ移住ノ事】
〇
兵部省
元会津降伏人、格別之寛典ヲ以テ、北海ヘ移住被仰付候事
【奥羽按察使派遣ノ事】
右大臣ヨリ委任状写
按察使
民政ハ治国ノ大本、至重之事トス御一新以来、専ラ億兆其所ヲ得テ、生業勉励候様トノ御趣意之処、三陸、磐城、両羽等之地ニ至テハ、去年兵革打続、平定ノ今日ニ当リ、万民猶未タ安堵セス御仁恤ノ御趣意貫徹ニ至ラス、実ニ太政之隆替ニ関係候間、今般按察使トシテ被遣候、付而ハ藩県ノ政績ヲ熟察シ地方官ト戮力協心、専ラ御趣意ヲ奉体シ、政教治化、其道ヲ尽シ、上下之情ヲ貫通セシム可ク候事
右大臣
○三日〈辛未〉
【哇布島ヘ使節差遣ノ事】
御沙汰書写
上野監督正
為御国人召還、以当官、哇布島ヘ使節被仰付候事
【東本願寺北海道開拓ノ事】
〇
東本願寺光勝
今般北海道新道切立、願之通被仰付候付、開拓使之揮指ヲ受ケ、可致尽力旨御沙汰候事
【増上寺北海道支配地ノ事】
増上寺
日高国之内、静内郡
右其寺支配被仰付候事
【北海道開拓使ヘ御沙汰ノ事】
開拓使北海道 出張之面々ヘ
今般北海道出張、不容易艱難、太儀之事ニ候其成否皇威之汚隆ニ関係候間、各同心戮力シテ、勉励従事可奏其功旨御沙汰候事
○四日〈壬申〉
【僧官免許差止ノ事】
御沙汰書写
各通 仁和寺門跡
大覚寺門跡
勧修寺門跡
従来其寺ニ於テ、永宣旨ヲ以テ僧官差免来候得共、今般御一新ニ付、向後被廃止候間、此旨相達候事
但、是迄許置候向ハ、一代切可為其侭事
○五日〈癸酉〉
【兵部省北海道支配地ノ事】
御達書写
兵部省
石狩国之内、浜益郡、忍路コツ、ツイシカリ札幌郡
後志国之内、忍路郡、余市郡、美国郡、古平郡
右其省支配被仰付候事
○七日〈乙亥〉
【前橋、磐城平両藩知事帰藩ノ事】
御沙汰書写
各通 前橋藩知事
磐城平藩知事
今般帰藩被仰付候ニ付テハ、兼テ被仰出候御趣意ヲ奉体シ、可尽職任旨御沙汰候事
【庄内藩北海道支配地ノ事】
〇
庄内藩
胆振国之内、虻田郡
右其藩支配被仰付候事
【澳国ト条約締結ノ事】
御布告書写
今般澳太利国ト、条約御取結相成候ニ付、此旨相達候事
○八日〈丙子〉
【弾例書写】
一、親王及諸司ノ奏任、非職ノ五位以上ノ犯解官〈親王ハ徒罪〉以上及判任以下、庶人ノ父母ヲ殴チ、判逆ニ連累スルモノハ奏弾ス、自余ハ直ニ刑部省ニ糾移ス
一、判任以下ノ解官以上ハ、台ニ於テ糾弾シ自余ノ犯ハ、本司及府藩県ノ司ヲ召シテ糾弾ス、又市井庶人ノ非違ハ、巡察視ル所ヲ審ニシ、是ヲ府官ニ移シテ糾サシム、藩県同之
但、本司及ヒ府藩県ノ司ハ、判官以上ヲ召ス可シ
一、応須糾劾シテ、犯罪未タ其実ヲ審ニセス拠状ヲ勘問スヘキハ、刑部省ニ移シテ推拷セシメ、委ニ事由ヲ知テ、事大〈解官以上〉ナラハ奏弾ス、又罪条既ニ明著ニシテ、勘問ニ及ハス、或ハ告密ニ渉リ、事急卒ニ出ルモノ等ハ、直ニ刑部省ニ告テ捕縛セシメ、其推拷スル所ヲ得テ、事大ナラハ奏弾ス、其直ニ省ニ告テ捕縛セシメ、推拷セシムルノ時解官以上ノ罪ハ、大忠以下一人、省ニ臨テ是ヲ聴ク、又台ヨリ発スルノ罪ニアラスト雖モ、大獄ニハ大忠以下監臨スル事、既ニ布令アルカ如シ
一、刑部省死囚ヲ決セハ、断案ヲ台ニ移ス可シ、若寃枉灼然タルアラハ、決ヲ停メテ奏聞ス、又死罪既ニ奏報ストイヘトモ、猶寃枉ヲ訴シテ、事可疑アラハ、推覆シテ、以状奏聞ス可シ
一、犯罪発覚スル所ヲ論セス、杖罪以下トイヘトモ、科断ハ一々刑部省ニ附スヘシ
一、親王、大臣以上官人、及ヒ華族ヨリ庶人ニ至ル迄、車馬、兵仗、衣服、従者ノ数法則ニ違、華麗僣奢ニ過ルモノハ糾弾ス、吉凶ノ礼法ヲ超ルモノモ又同
一、官司枉判アレハ、所由ヲ追テ糾正ス、又官人本司ニ於テ政ヲ行フニ、怠慢シテ欠有ラハ是ヲ糾劾ス
一、納表匱官人ノ害政、及ヒ抑屈ヲ告ルノ書ハ、弁官右大臣ニ上リ〈不可披見〉後台ニ受テ其所訴ヲ案察シ、理当ハ奏聞シ〈事大小ヲ論セス〉不当理ハ之ヲ弾シテ、刑部ニ移ス
一、京中ノ巡察ハ、毎町坊令一人ヲ従ヘテ巡視ス、若急卒捕縛スヘキモノアラハ、巡邏ノ兵ヲシテ縛セシメ、先勘問シテ所司ニ移ス
一、巡察弾正、時々京中便地ヲ点シ、坊令ヲ従ヘ、戸主ヲ会集セシメ、巡察是ニ臨ンテ京府官人及坊令等百姓ヲ枉害セルカ、時勢其宜キヲ得サルカ、孝順義節ノ顕ハレサルモノ有カ、如何ヲ尋ヌ可シ、藩県同之
一、巡察時々囚獄ヲ検校シ、獄司ノ非違ヲ糾弾ス
一、人罪ヲ告ルモノアラハ、宜ク三審ノ法ヲ用ユヘシ、告密モ又令文ニ拠ル
一、奏弾ハ太政官ヲ歴スシテ、直ニ奏聞スト雖モ、時宜ヲ計リ、尹若クハ弼、右大臣ト共ニ奏ス可シ、尹弼アラサレハ大忠、右大臣ニ就テ奏ス、但シ、右大臣ノ外、職事預聞事ヲ得ス
一、親王及参議以上ノ罪ヲ糾劾ス可ンハ、時宜ニ従テ制ヲ立ツヘシ、其朝堂ノ非違ハ、式ノ例ニ准ス、但、参議以上ハ尹弼アルニアラサレハ、弾スルヲ得ス
一、四位以下ノ糾弾ハ、悉ク台ニ召ス
一、参議以上身病アレハ、家令ヲ召シテ勘問ス、家令本主ニ告テ猶不肯答ハ、忠以下其家ニ向テ対弾ス、四位以下病アレハ、其愈ルヲ俟テ台ニ召ス
但、急卒ノ事アレハ此例ヲ用ヒス
一、台喚三度ニシテ参セス、幷ニ勘事ヲ弁申セサルモノハ、罪ニ処スヘシ
一、非常巡察ヲ藩県ニ発シ、政事ヲ覆問シ、非違ヲ糾弾ス可ンハ詔使ノ例ニ准スヘシ
一、叛逆告密アルニアラサル以外ハ、内奏スル事アルヘカラス
但、勅問ニ出ルモノハ此限ニアラス
一、弾正私ヲ挟テ、事実ナラサルモノヲ弾セハ、反坐ノ法ニ准スヘシ
一、尹若シ犯スコトアラハ、弼以下忠以上、共ニ議判シテ奏弾ス、其台中ノ官人非違アラハ、各相弾ス
一、朝議法律ニ関ルモノハ、弾正悉ク預知ルヘシ、儀式衣冠等ノ制度モ又同シ
右依天裁決定如件
明治二年八月
弾正台