太政官日誌 明治二年 第四十二号
明治己巳 自四月九日 至十四日
東京城第五
○四月九日〈辛亥〉
【松平、内田両家版籍奉還ニ付上表ノ事】
松平日向守上表写
今般王政御一新ニ付而者、府藩県一体ニ可相成儀ニ付、宗家越前守、版籍ヲ奉納度旨、先達而上表仕候通、私儀モ同様之旨趣ニ付、版籍奉還仕、伏而奉仰天裁度奉存候、此段宜御執奏奉願候、以上
四月
松平日向守
弁事御中
内田主殿頭上表写
今度諸藩、追々版籍朝廷ヘ奉返上度之旨、及出願候趣、伝承仕候、全誠忠之厚志、感慨仕候、臣正学ニ於テモ、素ヨリ至願之儀御座候、依之微臣封土之儀モ奉還、巨海之一滴、聊微忠之節ヲ奉尽度、何卒御一轍之天裁ヲ俯テ奉懇願候、此段宜御執奏奉希上候、誠惶頓首
四月
内田主殿頭
弁事御中
○十日〈壬子〉
【最寄替ニ付韮山、大宮、品川三県ヘ御沙汰ノ事】
御沙汰書写
韮山県
今般最寄替、被仰付、其県支配所、武蔵国多摩郡、高五万六千石余、品川県支配被仰付、同県支配所、同国入間郡高麗郡比企郡、高五万四千石余、大宮県支配所比企郡、高六千石余、別紙郷村高帳之通、其県支配ニ被仰付候間、此旨相心得、地所受取渡可致事
別紙略ス
○ 大宮県
其県支配所、武蔵国比企郡、高六千石余、韮山県支配ニ被仰付候間、郷村引渡可申事
○ 品川県
今般最寄替、被仰付、其県支配所、武蔵国入間郡、高麗郡、比企郡之内、高五万四千石余、韮山県支配ニ被仰付、同県支配所、同国多摩郡、高五万六千石余、別紙郷村高帳之通、其県支配ニ被仰付候間、此旨相心得、地所受取渡可致事
別紙略ス
【池田侍従、左近衛権少将宣下】
池田侍従
任左近衛権少将
備前守如元
右宣下候事
【陸軍編制ニ付軍資金上納ノ事】
先達テ、陸軍編制ニ付皇国一体高一万石ニ付、軍資金三百両宛、上納被仰付候ニ付テハ、中下大夫、上士ニ至迄、右之割合ヲ以、禄高ニ応シ、上納可致事
但、納メ方之儀、京住之者ハ、京都軍務官ヘ可伺出、東京住之者ハ、東京軍務官ヘ可伺出事
【版籍奉還上表ニ付御沙汰】
各通 松平大和守
土屋相模守
阿部基之助
本多紀伊守
阿部駿河守
水野肥前守
久松大蔵少輔
遠藤但馬守
米津伊勢守
田沼玄蕃頭
今度土地人民版籍奉還可致之旨、及建言候条云々〈以下第十号、池田中将ヘ御沙汰書同文〉
【各官規則取極メノ事】
御沙汰書写
神祇官
会計官
軍務官
外国官
刑法官
別紙之通、民部官ヨリ規則書差出シ候ニ付、於其官モ、規則取極メ、書取ヲ以、可申出旨御沙汰候事
民部官規則書
一、従前ノ規則ヲ改正シ、又ハ新ニ法制ヲ造為スル等、総テ重大ノ事件ハ、当官決議ノ上、更ニ輔相ノ裁断ヲ受ヘシ
一、前条ノ外、府藩県ヨリ伺出ル所之小事件ハ、裁判ノ上、速ニ下知スベシ、追而月括リ両度〈朔日ヨリ十五日ヲ一括リ十六日ヨリ晦日ニ至一括リ〉
其大旨趣ヲ輔相ニ達スベシ、但シ重キ事件ハ、速ニ達ル事勿論タルベシ
一、諸届ハ当官限リ聞置ベシ、重キ事件ハ前条ニ準ス
一、奏聞ヲ経テ、布令スベキ事件、被仰出御沙汰ト認ムベキ等ノ部ハ、弁事ヘ出シ、布告ヲ請フベシ
一、前条ノ外、総テ当官ヨリ布令スベシ
一、官員黜陟ハ朝廷ニ在ト雖モ、当官ハ民政ヲ総括スル処ニテ、地方官員ノ平居勤惰及ヒ其材ノ適否、関リ知ル所ナルヲ以テ、其黜陟ノ議ニ於テハ、当官ヨリ預参スベシ
但、地方官枢要ノ人員ハ、年限中容易ニ進退ナキヲ要ス
一、輔相ヘ伺出等ハ、知事、副知事ノ専務タリ、尢二人共、病気其他参仕ナキ時ハ、判事ノ取計格別タルベシ、総テ職務ノ煩雑ナキヲ要ス
○十二日〈甲寅〉
【日本書記御開講ノ事】
日本書紀御開講、福羽五位勤之
御日課御改ノ分左之通
一、七 朝辰半刻、詩経講義 中沼六位
昼午半刻、資治通鑑講義 秋月右京亮
三、八 朝辰半刻、詩経〈御稽古御復読〉 秋月右京亮
午半刻、御親講〈貞観政要帝範〉
四、九 朝辰半刻、詩経〈御稽古御復読〉 秋月右京亮
昼午半刻、大学講議 中沼六位
五、十 朝辰半刻、詩経〈御稽古御復読〉 秋月右京亮
昼午半刻、国史講義 福羽五位 平田六位
【安部家版籍奉還ニ付上表ノ事】
安部摂津守上表写
臣信発敬白、大政復古、宇内一新、御制度大変革、可有之奉存候処、薩長肥土四藩之建言伝承仕、至当之確言奉存候、私儀采地人民等奉還、仰待天裁度奉存候、此旨宜御執奏之程、奉懇願候、誠恐誠惶謹言
四月
安部摂津守 信発花押
弁事御中
○十三日〈乙卯〉
【版籍奉還ニ付御沙汰】
御沙汰書写
各通 上杉式部
酒井徳之助
田安中納言
大河内右京亮
丹羽五郎左衛門
諏訪伊勢守
中山備中守
米倉丹波守
井上宮内少輔
森川内膳正
今度土地人民版籍奉還可致之旨、及建言候条云々〈以下第十号、池田中将ヘ御沙汰書同文〉
【太田家名断絶ノ事】
鈴木大学
其方触下、太田邦之助儀、致亡命候ニ付、家名断絶申付候、此旨相達候事
【酒井多十郎召捕ノ事】
保々君三郎
其方家来、酒井多十郎儀、御取調之筋有之、軍務官ヘ御召捕相成候ニ付、御吟味中、其方謹慎申付候事
○十四日〈丙辰〉
【氷川神社ヘ官幣使御差遣ノ事】
氷川神社ヘ官幣使トシテ、亀井中将被差立、御幣物金五千匹、摂社三所ヘ金千匹宛被進
祝詞
天皇我天御命爾坐世掛巻毛恐伎氷川社爾鎮坐須大乃大御前爾神祇副知官事従四位下行左近衛権中将源朝臣茲監乎差使弖白給久去志弥生乃初旬爾玉敷平安京乎御発輦弖東海道乃路能長手乎遥々爾同月乃廿日〈阿万〉里八日止云日爾平加爾安〈良加爾〉東京爾着御給比弖食国天下乃万機乎御自親聞食給布止為天御前爾侍良布人等波更爾母不言四方国諸臣等爾毛広久事議里給比深久令思給比天万世爾堅盤爾常盤爾動〈久万自岐〉天津日嗣乃基業乎起弖天下豊饒爾民勇美天遂爾百千足国浦安国乃成給〈波久止〉思食須事乃由乎大前爾祈白須止為天幣帛奉〈良士米〉給〈波久止〉宣畏伎大神此状乎平気久安介久聞食天八十禍津日乃禍事令有不給皇軍爾射向布醜乃奴波大神乃稜威以天速介久誅罰女賜比天大御世波朝日乃豊栄登爾栄倍行倍久守里幸比賜倍止鹿自物膝折伏世鸦自物頸根突抜弖畏美畏美毛白給〈波久止申〉
明治二年四月十四日