太政官日誌・明治2年104号

太政官日誌 明治二年 第百四号
明治己巳 自九月廿八日 至十月十八日
東京城第六十七
○九月廿八日〈丙申〉
【銭相場ニ付御布告ノ事】
御布告書写
銭相場之儀、金一両ニ付、拾貫文通用可致旨先般御布令相成候、就テハ両替屋共ニ於テ、心得違有之間敷筈之処、当節ニ至リ、相場幷諸銭之定位等区々ニ相成、融通甚差支、殊ニ真鍮銭ハ直増可相成抔、跡形モナキ虚説申触シ、私ノ相場相立、密ニ売買又ハ貯銭等致シ候者有之由、以之外不埒之事ニ付、既ニ此度右体之輩召捕吟味之上、御処置之品モ有之候条、向後銭融通方之儀、両替屋共ハ不及謂、諸商人共一同御布令之旨相守、銘々心得違無之様可致事
但、地方官之見計ヲ以テ、一時融通之タメ両替屋渡世之者ニ無之共、当分之内勝手ニ銭引替差許候儀ハ、不苦候事
○廿九日〈丁酉〉
【大宮県、浦和県ト改称ノ事】
御布告書写
大宮県、自今浦和県ト被称候事
○十月四日〈壬寅〉
【桑名、岡、高須三藩知事帰藩ノ御沙汰】
御沙汰書写
各通 松平桑名藩知事
中川岡藩知事
松平高須藩知事
今般帰藩被仰付候ニ付テハ、兼テ被仰出候御趣意ヲ奉体シ、可尽職任旨御沙汰候事
○十月五日〈癸卯〉
【無爵ノ華族ヘ御達ノ事】
御達書写
華族叙爵無之輩左之通
一、天気伺参内ニ不及候事
一、御用有之被召候節ハ、御内玄関ヨリ参入拝叙相済候上ハ、御車寄ヨリ退出之事
○七日〈乙巳〉
【諸刑成ベク流以下ノ事】
御沙汰書写
刑部省
今般新律取調被仰付候ニ付テハ、前日集議院ヘ御下問ニ相成候通、専ラ寛恕之御趣意ニ原キ、凡叛逆、人命、強盗、放火等ヲ除之外、可成丈流以下ニ処シ、竟ニ刑無刑ニ期シ候様被遊度聖旨ヲ奉体シ、撰定可致旨御沙汰候事
【蒸汽船買入差許ノ事】
御布告写
西洋形風帆船、蒸気船、自今百姓町人ニ至ル迄、所持被差許候間、製造又ハ買入等致度者ハ、管轄府藩県添書ヲ以テ、東京外務省ヘ可願出事
但、身元不慥之者共、外国人馴合、御国人所持之名ヲ、貸シ与ヘ候様之悪弊無之様、府藩県ニ於テ篤ト吟味之上、添書可致候事
○八日〈丙午〉
【米国公使国書捧呈ノ事】
米利堅公使参朝
米国ヨリ来翰写
米利堅合衆国大統領ユリスセス・ヱス・カラント、ヨリ日本
天皇陛下ヘ
信友
余秀逸ナル国民ノ内ヨリ、米利堅合衆国ミニストル・レシデント職トシテ天皇陛下政府ノ許ニ居住セシムルタメ、チヤルス・イヽテイ・ロングヲ撰挙シタリ、両国ニ関係スル益且ツ両国親睦及ヒ通信ヲ、弥厚フセンモノ、余ガ信意ヲ、彼レ能ク承知ス、余彼レノ忠信正直、且ツ行状正シキヲ知リ、彼レ両国ノ益及ヒ幸福ヲ存保シ、且ソレヲ増ス事ヲ常々勉励シ陛下ノ満足シ給ハンコト、余ニヲイテ実ニ疑ヒナシ、依テ陛下彼レニ懇ニ接待シ彼レ合衆国ニ代リテ、何事ニヨラス奏スル時且合衆国ノ親睦及ヒ陛下ノ幸福ヲ祈望スル事ニ付陛下ニ奏スル時ハ、別テ彼レヲ信シ給ハン事ヲ懇願ス陛下ノ安全ヲ天ノ守護アラン事ヲ、余天神ニ祈願ス
紀元千八百六十九年第四月廿八日、華盛噸府ニ於テ是ヲ認メタリ
陛下ノ信友
ユ・ヱスガラント
大統領ノ命ニ因テ
セケレタリー・ヲフ・ステート〈執政
ハシルトン・フヰス

米利堅合衆国大統領ユリスセス・ヱスカラント、ヨリ日本
天皇陛下ヘ
信友
ミストルアル・ビフアンフアルケンボルク是迄米利堅合衆国ミニストルレシデントノ職トシテ陛下ノ元へ送リ置シ処、今般帰国イタスニ付陛下ニ別レヲ告ル様、予彼ニ命セリ、フアンケンボルク氏ヘ主タル命令ハ、日本政府之益親睦ノ厚キヲ堅フセンガ為ニシテ幸ニ両国ノ間ニ連綿スル平和ノ交際ヲ、愈深カラシメントノ予ガ信意ヲ陛下ニ奏スル事彼ノ任タリシナリ、彼前条ノ命令ニ随ヒ、夫ヲ果セシ彼ノ処為ニ付陛下満足シ給ヒ、且陛下ニモ心良ク、彼今度ノ命令ヲ遂ケン事ヲ予イノル陛下ノ幸福且日本帝国ノ繁栄ヲ祈願ス
陛下ノ信友 ユ・ヱス・ガラント
大統領ノ命ニテ ハシルトンフヰス
於華盛噸国務官
千八百六十九年四月二十八日

米国公使ヘ勅答
日本天皇米利堅大統領ニ復ス、貴国公使アルヒーウハンウハルケンボルク久ク我国ニ在リ能ク其職ヲ奉シ、両国ノ交誼ヲ重ンジ、誠信懇篤、朕深ク之ヲ嘉ミス、今又新公使チヤルレスイデイロングヲシテ来テ其任ニ代ラシム其本国ニ代リテ告ル所ノ件々、朕固リ之ヲ信シ敢テ疑ヲ容レス、且貴書ヲ致ス、殊ニ其誠意ヲ領ス、益以両国之際、交誼弥深ク親眤永久ナラン事ヲ欲ス、今旧公使国ニ帰ル、因テ懇ロニ朕カ意ヲ伝ヘシメ、以テ大統領ノ健康安寧ヲ祝ス
明治二年己巳十月
奉勅右大臣従一位藤原朝臣実美

米国旧公使ヘ之勅語
今度貴国大統領新タニ、チヤルレス・イデイ・ロングヲ撰挙シテ、ミニストルレシテント之職トシ、来テ汝ニ代ラシム、汝我国ニ滞在シ懇信ノ日久シ、今ヤ国ニ帰ル朕甚タ之ヲ惜ム、海涛万里、其恙ナキヲ祈ル、汝国ニ就ク之日朕カ大統領ノ康寧ヲ祝スルノ意ヲ伝ヘヨ

米国新公使ヘ勅語
貴国大統領安全ナルヤ、今度汝ヲ撰挙シ、ミニストルレシテントノ職トシテ来ラシメ、大統領ノ手書ヲ伝フ、其懇切ノ厚意朕深ク喜悦セリ弥以テ両国ノ交際、親眤永久ナラン事ヲ欲ス
○九日〈丁未〉
【宣教使被接ノ事】
御布告写
宣教使、神祇官ヘ被接之事
【仙台藩北海道支配地ノ事】
御沙汰書写
仙台藩
千島国之内紗那郡
右其藩支配ニ被仰付候事
○ 各通 伊達英橘
伊達勝三郎
石狩国札幌郡、空知郡之内
但、地所之儀ハ、石狩府ニテ可及差図事右其方支配ニ被仰付候事
【稲津外四名ヘ下賜ノ事】

稲津集議権判事
集議院幹事 伊達五郎
同 有竹裕
議院御創立以来、格別精勤、神妙之事ニ候、依之別紙目録之通下賜候事〈絹一匹宛〉
○ 岡崎藩議員 坂口音度
議員之事務、老年之身ヲ以テ格別精勤、神妙之事ニ候、依之別紙目録之通下賜候事〈真綿一包末広〉
○ 集議院幹事 園田保
当春来、議院事務格別励精、神妙之事ニ候、依之別紙目録之通下賜候事絹一匹
○十三日〈辛亥〉
【柏崎、水原両県ヘ軍監差向ノ事】
各通 柏崎県
水原県
其県出張之兵隊為管轄、兵部省ヨリ軍監差向候条、以来兵隊進退等之儀ハ申談取計可致事
【安徳帝御陵御取調ノ事】
宗厳原藩知事
安徳帝御陵之儀、取調被仰付候間、右御陵ニ関係候事跡、委詳取調可申出事
○十四日〈壬子〉
【御医ノ事】
御沙汰書写
今般三典医之外、御医之輩三十歳以上者、医員被仰付、三十歳以下ハ医学修業被仰付総テ大学校附属被仰付候事
○十五日〈癸丑〉
【信州騒擾ノ巨魁取調ノ事】
各通 上田藩
小諸藩
其藩管轄信州地所、先頃土民蜂起、其後及鎮静候得共、其地方ハ従来沸騰之悪風不少趣、全下民疾苦之情実、貫徹不致ヨリ差起候儀ニモ可有之候得共、兎角姦民之煽動ヨリ、良民之大害ヲ引起候次第モ有之、不容易事ニ候、屹度巨魁之者取調、処置方刑部省ヘ可窺出事
○ 伊那県
同文〈其藩作其県〉
○十七日〈乙卯〉
【藩制改革取調ノ事】
御沙汰書写
待詔下院出仕之面々、藩制改革取調掛被仰付候事
【東京市中兇賊横行ノ事】
各通 兵部省
東京府
近来市中盗賊、夜ニ乗シ兵器ヲ以テ、却掠殺奪等之所業有之趣、殊ニ輦轂下ニ於テ、右様之儀有之候ハ、以之外之事ニ候、全府下取締不行届ヨリ差起リ候儀ニ有之候、猶東京府申合セ取締方一際厳重可致旨御沙汰候事
但、東京府ヘハ兵部省申合ニ作ル
○十八日〈丙辰〉
【当百銭御鋳造ノ事】
御達書写
今般新銅銭御鋳造ニ相成候得共、差向キ北海道開拓為融通、在来之当百銭御鋳造増相成候条、為心得相達候事