太政官日誌・明治2年96号

太政官日誌 明治二年 第九十六号
明治己巳 自九月十日 至十四日
東京城第五十九
○九月十日〈戊寅〉
【留守官中弁官史官廃止ノ事】
御沙汰書写
留守長官
今般御改正ニ付テハ、留守官中ニ被差置候弁官、史官、御廃止ニ相成候得共、其官之儀ハ格別御委任之廉モ有之候ニ付、判官ハ弁官、大主典ハ史官ノ心得ニテ、庶務取扱可致旨御沙汰候事
【清水家々名ノ事】
〇静岡藩知事徳川家達
清水家家名相続歎願之趣、不被及御沙汰候祖先祭典之儀ハ、於宗家合祭可致旨、被仰出候事
但、家来之輩扶助之儀ハ、従前之通ニテ、追テ相応之御処分可有之候間、此旨可相心得事
○十二日〈庚辰〉
【澳太利公使国書捧呈ノ事】
澳太利公使参朝
澳太利国来翰写
上帝ノ恵ヲ受タル澳地利皇帝婆希密ノ「レクス」兼洪喝利ノ「アホストリリツクレクス」第一世「フランツジヨーセフ」ヨリ、威権赫々トシテ、美名輝キタル尊貴ナル日本天皇陛下ニ敬意ヲ表ス、貴国ト和親貿易航海ノ条約ヲ結ヒ、両国ノ間ニ往来存在スル交誼ヲ、更ニ固定シ、両国ノ便宜ヲ増ン事ヲ祈望シ、且貴国政府ニテ、我誠意ヲ宜シク了察セラレンコト、疑ハサル所ナレハ、我寵愛ノ忠臣、第三等水師提督特派公使全権ミニストル等「ベソク」、貴族「アントン」ニ委任シ、全権ヲ与ヘリ、此者ハ我外国事務宰相ヨリ命スル趣意ニ基キ、貴国ノ全権ト合議決定シ、以テ調印スヘキ権ヲ有スル也、故ニ其命ノ趣意ニ基キ右全権ノ議定セシ事ハ、我ニ於テ無異存、承諾スヘキヲ茲ニ約ス、右証拠トシテ、此委任状ニ我名ヲ自記シ、我国印ヲ調セシメタリ、今我陛下ノ健康安寧ヲ上帝ニ祈ル
於ウヰーナ府
千八百六十八年第十二月廿日
即我位ニ即キシヨリ二十一年ノ後
フランヅジヨーゼフ自記 国印
貴族 ホイスト自記
皇帝陛下ノ命ニヨリ
皇帝陛下幷執政ノ合議官
ガゲン貴族マクシミリアン自記

澳太利国ヘ勅答写
日本天皇、敬テ澳太利兼洪喝利皇帝陛下ニ復ス、朕久陛下ノ威権赫々美名輝々タルヲ聞ク今陛下誠信懇篤、第三等水師提督特派公使全権ミニストルベツク貴族アントン氏ニ命シ、貴書ヲ齎ラシ来リ、以テ和親条約ヲ結ヒ、委スルニ合議調印之権ヲ以テス、朕素ヨリ深ク望ム所ナリ、朕乃チ華族重臣従三位守外務卿清原朝臣宣嘉、及ヒ従四位守外務大輔藤原朝臣宗則ヲシテ、貴国全権公使ト協議調印セシメテ、以テ陛下ノ盛意ニ答フ、今ヨリ以後、両国之際、交誼親厚、永ク以テ渝ラサラン事ヲ庶幾ス、更ニ皇帝陛下ノ健康安寧ナラン事ヲ祈ル、敬テ復ス
明治二年己巳九月十二日
御諱御国璽(印)
奉命右大臣従一位藤原朝臣実美 花押
澳太利国公使ヘ勅書写
澳太利幷ホンガリー皇帝陛下、安全ナルヤ、此度我国ト和親貿易ノ条約ヲ結ハン為メ、汝ヲ撰挙シ、特派使節トシテ来ラシメ、皇帝陛下ノ手書ヲ受タル事、朕深ク喜悦ス、朕又重臣ニ命シ、汝ト条約調印セシメントス、茲ニ貴国皇帝陛下ノ康寧ヲ祝シ、両国交際永久親睦ヲ希望ス
【黒田侯賞秩半高返納ノ事】
御沙汰書写
福岡藩知事黒田長知
賞典ハ深重ノ叡旨ヲ以テ被仰出候事ニ付願之趣不被及御沙汰候段、先達テ御達相成候処、猶又再三懇願ノ旨趣、全至誠ノ所致、神妙ノ至ニ被思食候、就テハ即今諸道不登庶民凍餒ノ勢ニテ、救荒目下ノ御急務ニ候処御用途必至御差迫ノ折柄、旁以乍御不本意、当年限リ賞秩半高返納被聞食、救荒ニ可被為充行旨、被仰出候事
【片倉、石川北海開拓ノ事】
〇各通 片倉小十郎
〇石川源太
北海道開拓之儀ハ、方今之急務ニ付、追々御処分モ有之候エ共、重大之事柄、全地一時ニ御手ヲ可被為着目的モ難相立折柄、其方儀不憚艱難、自ラ彼地ヲ跋渉シ、開拓致度志願之趣、神妙之至ニ被思食、北海道開拓御用被仰付候条、家来其外有志之徒相募リ、自費ヲ以漸次移住、屹度実効相立候様、尽力可致旨御沙汰候事
【石川、片倉北海道支配地ノ事】
石川源太
胆振国之内、室蘭郡
右一郡、其方支配ニ被仰付候事
○ 片倉小十郎
胆振国之内、幌別郡
右一郡、其方支配ニ被仰付候事
○十四日〈壬午〉
【香春、鶴田両藩減禄補顛ノ事】
御沙汰書写
香春藩知事小笠原忠忱
其藩元管轄地豊前国企救郡、日田県管轄ニ被仰付候、就テハ本禄ノ内及減少居候処、今般御詮議ノ趣有之、不足高三万千九百八十一石二斗、御蔵米ヲ以テ為藩禄下賜候事
○ 鶴田藩知事松平武聡
其藩元管轄地石見国那賀郡其外、大森県管轄ニ被仰付候、就テハ本禄ノ内、及減少居候処、今般御詮議ノ趣有之、不足高二万四千八百十石九斗二升三合、御蔵米ヲ以テ、為藩禄下賜候事
但、美作国久米、北条両郡、其外共高三万六千百八十九石七升七合地所ノ儀ハ、是迄ノ通可為支配事
【五島、米沢並兵部省北海道支配地ノ事】
〇五島銑之亟
後志国磯屋郡ノ内、後別川東〈但、川属之〉
右其方支配ニ被仰付候事
○米沢藩
後志国磯屋郡ノ内、後別川西〈但、川西ノツトヲ以テ境界トス〉
右其藩支配ニ被仰付候事
○兵部省
後志国ノ内、太櫓郡、瀬棚郡
胆振国ノ内、山越郡
釧路国ノ内、白糠郡、足寄郡、阿寒郡
右六郡、其省支配ニ被仰付候事