太政官日誌 明治二年 第八十二号
明治己巳 自七月十一日 至二十一日
東京城第四十五
○七月十一日〈辛巳〉
【騒擾中ノ罪責処断ノ事】
御布告書写
昨年来天下多事、未タ一定ノ御法律、相立サル処ヨリ、自然不束ノ所業致シ候者、往々有之、今日ニ至リ、其法ヲ正サレ候得ハ、罪責不可免、素ヨリ法ハ枉ヘカラス候エ共、其所業一己ノ私利私怨ニ渉ラスシテ、騒擾中無拠情実差迫リシヨリ、法ヲ犯スニ立至リ候類ハ御寛典ニ被処候間、能々事実取糾シ、処分可致事
【勅、奏、判授ノ事】
御達書写
勅授 四位以上
奏授 六位以上
判授 七位以下
右之通ニ付相達候事
【島津、毛利東京ヘ召サル】
御沙汰書写
各通 島津従二位
毛利従二位
御用有之候間、東京ヘ罷出候様、被仰付候事
【大炊御門、西洞院、鷹司陞叙ノ事】
宣下状写
大炊御門正四位
叙従三位
右宣下候事
○ 西洞院正五位
叙従四位
右宣下候事
○ 鷹司従五位
叙正五位
右宣下候事
○十三日〈癸未〉
【開拓督務、開拓長官ト改称ノ事】
御沙汰書写
鍋島従二位
開拓督務被仰付置候処、今度御改正ニ付、開拓使長官ト被仰付、更ニ宣旨下賜候事
○ 開拓使長官
諸省卿同等タルヘク旨、被仰出候事
【節朔参賀ノ事】
御達書写
節朔参賀、是迄三等官以上之処、御改正ニ付今後勅授官以上参朝可有之事
下乗規則
親王車寄門外
伯左右大臣大納言六省卿長官尹右中仕切門外
右之外、従前之通、可相心得候事
○十四日〈甲申〉
【五島家知行所騒擾ノ事】
御沙汰書写
五島銑之亟
其方元知行所郷村、先般本家福江藩知事ヘ可引渡旨、被仰出候ニ付而ハ、村役人其外小民ニ至ル迄、心得違無之様申諭、可取計筈之処、遂ニ民心沸騰ニ至リ候段、全ク示方不行届ニ付、屹度可被仰付儀ニ候ヘ共、既ニ引渡相済候儀ニ付、格別之訳ヲ以テ、謹慎被仰付候事
○ 福江藩知事
其方儀、先般末家五島銑之亟元知行所郷村、可請取旨被仰出候付而ハ、藩士共ヘ申付、精々鎮撫ヲ加ヘ可取計之処、遂ニ民心沸騰ニ至リ候段、全ク示方不行届ニ付、屹度可被仰付儀ニ候ヘ共、格別之訳ヲ以テ、差扣被仰付候事
○十五日〈乙酉〉
【貨幣仕方立ニ付各国公使申立ノ事】
諸藩ヘ御下問書写
貨幣偽造之儀ハ、国家之大禁ニ候処、近来騒擾之機ニ乗シ、処々ニ贋鋳不少、終ニ莫大之金高、外国人之手ニ渡リ候ヨリ、別紙之通申出候、方今外国御交際盛ナル折柄、国内ニ於テ大禁ヲ犯ス、如此ノ夥敷ニ至ル、内外人民之疾苦、国辱之甚シキ、是ヨリ大ナルハナシ就テハ右御処置振、見込之処御下問被仰出候間、明十六日中ニ差出可申事
別紙
覚書
日本通用金、性合等混乱ニ付、外国貿易ニ大害ヲ起シ候ニ付、左ノ廉々ヲ、速ニ所置アラン為メ、各国公使等、輔相三条右大臣、議定岩倉右兵衛督、及ヒ外国知官事沢右衛門権佐閣下ト面語センコトヲ要ス
第一
是迄天皇政府、或ハ徳川、又ハ他ノ大名ニテ鋳造セシ一分銀幷二分金ハ、国内通用金ト為シ、且天皇政府ニテ相当ト思フ、他ノ貨幣ヲ吹立、追々引換ル迄ハ、右通用金無差支日本部内通用スヘキ旨ヲ天皇政府ニテ証明スヘキ事
第二
外国人又ハ日本人ヨリ、日本貨幣ニテ政府ヘ納ムヘキ地税、租税、或ハ運上ヲ天皇政府ニ於テ、右ノ貨幣ニテ請取ヘキ旨ヲ天皇政府証明スヘキ事
日本貨幣仕方立ニ付天皇政府ニテ施セシ処置振ヲ、右面会ノ節、閣下等ヨリ、各国公使委細承知致シ度事
右一件之弁解ヲ、各国公使ヘ、外国知官事及会計副知官事ニテ約セシ事、既ニ三ケ月余越タレ共、未タ其約ヲ果サヽリシ故ナリ
千八百六十九年八月十三日、横浜ニ於テ
○十七日〈丙戍〉
【三府以外ノ諸府廃止ノ事】
御布告書写
今度御改正ニ付、京都、東京、大阪三府之外諸府被廃、総テ県ニ被仰付候事
○十八日〈丁亥〉
【織田信敏再勤ノ事】
御沙汰書写
織田信敏
先般御沙汰之趣モ有之、隠居被仰付候処出格之思食ヲ以テ、其方儀再勤被仰付、改而被任知藩事候間、至仁之御趣意ヲ奉戴シ、励精竭力、可尽職掌旨御沙汰候事
○ 織田寿重丸
父信敏儀、今般再勤被仰付候ニ付、其方儀知藩事被免候、以後嫡子ト可相心得旨御沙汰候事
○十九日〈戊子〉
【福江藩知事差扣被免ノ事】
御沙汰書写
福江藩知事
差扣被免候事
○二十日〈巳丑〉
【軍艦献上願出ノ事】
御沙汰書写
鹿児島藩知事
軍艦献上願出候趣、神妙之至御満足被思食候、然ル処、海軍之御規則御取調中ニ付、追而何分之御沙汰可有之候事
【五島銑之丞謹慎被免ノ事】
五島銑之亟
謹慎被免候事
○ 同人ヘ
兼テ歎願之趣、無余儀次第ニ被思食、格別之思食ヲ以テ、富江表ニ於テ、高千石地方ヲ以テ被下置候、就而者向後本末之大義ヲ不失様、屹度相心得可申事
○ 福江藩知事
末家五島銑之亟、兼而歎願之趣、無余儀次第ニ被聞食、格別之思食ヲ以テ、富江表ニ於テ、高千石地方ヲ以被下置候間、引渡可申候、就而ハ、向後本末之大義ヲ不失様、相心得可申事
○ 各通 福江藩知事
五島銑之亟
有川村制札致破却候者幷徒党頭立候者、末家立会取調之上、処置方可伺出事
五島銑之亟ヘハ、末家ヲ本家ニ作ル
【鶴田藩困窮ニ付福井外三藩ヘ御沙汰ノ事】
〇
福井藩知事
鶴田藩儀、必至困窮之趣ヲ以テ、御扶助願出情実無拠次第ニ相聞候得共朝廷ニ於テモ、内外莫大之御用度ニテ、御差支之折柄ニ付、其方続合之訳ヲ以テ、如何様共扶助致シ遣候様御沙汰候事
但、名古屋、鳥取、岡山三藩ヘモ、同様御沙汰相成候間、申合セ、取計可申事
〈名古屋、其外二藩ヘ御達書、福井藩同文ニ付、略ス〉
○二十一日〈庚寅〉
【親王八景ノ間、元大臣麝香ノ間ノ事】
御達書写
親王、自今八景之間参入之事
送迎御取扱、総而是迄之通リ
元大臣之輩、麝香之間参入之事
御取扱、非官之華族同様タル可キ事
【兵学校取建ニ付大村上京ノ事】
御沙汰書写
大村兵部大輔
兵学校取建幷器械製造御用為取調、上京被仰付候事
【徳川外四侯ヘ下賜ノ事】
〇
各通 徳川正二位
浅野従二位
細川従四位
長岡従四位
成瀬従五位
在職中勉励、苦労ニ被思食候、依之此品下賜候事