太政官日誌 明治二年 第七十七号
明治己巳 六月三十日
東京城第四十
○六月三十日〈庚午〉
軍務官箱館征討合記第八〈追録〉
館藩届書写
四月九日昼四字頃、江差在乙部村ヘ揚陸ヤ否賊兵二小隊許リ、東南坂上マテ押来リ、弊藩半小隊ト戦闘、追々弊藩兵隊上陸、左右ノ山道ヨリ及攻撃、賊徒敗走致シ候、其節賊長ト覚シキ者、兵士橋本治五右衛門ニ狙撃セラレ落馬逃去候、夫ヨリ各藩幷弊藩兵隊、江差表ヘ進撃、柳崎村ヘ繰入候処、賊共大砲備置候間、前面幷川上中崎ノ方ヨリ進ミ戦争ニ及ヒ賊亦潰走致シ候ニ付、江差ヘ進軍候得共、別段賊ノ守備モ無之、同所ニ宿陣仕候、尤乙部村ヘ向候一番半隊ハ、厚沢部鶉村ニ宿陣ノ趣軍事方松崎多門ヨリ急報有之、其節生捕分取如左
分捕 洋鞍置 馬一匹
生捕 〈賊艦迅速丸〉 水手 秀吉
同 吉蔵
外ニ賊兵 二人
四月九日、御軍艦江差在乙部村ヘ着岸、十一字各藩揚陸、御達ニ依テ弊藩糾武隊、即刻江差口ヘ出兵、田沢村ヨリ山ノ手ヘ進ミ候処、賊兵遥ニ相見ヘ候ニ付、致尾撃候、即賊兵逃散之趣、隊長松崎辺ヨリ急報有之候、其節分取如左
施条砲一門
手槍一条
剣一振
刀一口
大小刀一通リ
シナイテル弾三百発許
同十一日御達ニ付、朝六時弊藩奇兵隊江良町村発シ、夫ヨリ遊撃隊ト共ニ、札前村迄進撃之処、賊根部田村ニ屯集ノ由ニ付、右半隊ニテ根部田村迄斥候イタシ、賊一人モ見ヘ不申候得共、撤兵ニテ予備ノ処、賊俄ニ山腰海辺ヨリ襲来シ、頗苦戦中、追々挟撃ノ勢相迫リ不得已兵隊一同、札前村野合ヘ引揚、然処八番遊撃両隊繰込候ニ付、諸隊相纏メ、再ヒ同所ニテ奮戦ニ及ヒ候上、小砂子村ヘ帰陣ノ趣軍事方蠣崎多浪ヨリ急報有之候、其節死傷如左
重傷 蠣崎衛士隊左嚮導 下国郁太郎
半隊左嚮導 高橋覚三
軽傷 銃卒 前田研吉
戦死 銃士 福井左五六
同十三日、大野越木間内関稲倉石ヨリ四里半程、天狗嶽ト申所ヨリ八九丁隔リ、三牧嶽ト申ス山ノ半腹ヘ、賊兵陣家ヲ搆ヘ候ニ付、長州福山兵隊幷弊藩一中隊相進候ヤ否、賊兵戦ヲ挑ミ屡発砲致シ候間、追々諸隊ヨリ応砲激戦ニ及ヒ候処、長州兵隊賊軍ノ後ロ山手ヨリ掩襲ニ依テ賊狼狽、一里半程下二股ノ方ヘ逃去直ニ尾撃ノ処、賊下二股山手ニ大砲備置、厳重防禦ニ付、長州、福山、弊藩ノ兵隊夫々分配攻撃、翌十四日暁マテ劇戦仕候処、一先稲倉石ヲ引揚ノ御達有之、同所ヘ帰陣ノ趣、軍事方今井晦輔ヨリ急報有之候、其節死傷如左
戦死 銃士 河合廉太郎
重創 二番隊軍事方 松崎多門
銃卒 小林重蔵
軽創 銃士 平沼寅太郎
同 笹村貫一
同十四日御達ニ付、朝六字頃弊藩一小隊稲倉石ヲ発シ、上二股ニ出兵中、二股昨日ノ戦場ニ繰入、山ノ中段ニ撤兵ヲ排シ、薩州、福山津軽ノ兵隊ト合併、昼二字ヨリ戦争、夜半ニ及ヒ追々兵士相労レ、一旦揚取候様、御指揮ニ依テ、暁二字天狗岳ヘ帰陣之趣、軍事方尾山徹三ヨリ急報有之候、其節死傷如左
戦死 銃卒 八木橋駒右衛門
重傷 同 高橋直五郎
軽傷 銃士 蠣崎甚五郎
銃卒 佐藤直太郎
同十七日御達ニ付、弊藩奇兵隊原口村山道ヲ発シ、立石野ヘ相進候処、同所ノ砲台ニ於テ各藩幷弊藩兵隊酣戦、賊兵砲台ヲ棄テ逃去候ニ付、奇兵隊ハ山手ヨリ賊ノ後ヲ襲撃シ、遂ニ長駆シテ福山城ノ後門ヨリ乗入申候、其節傷者如左
軽創 奇兵隊 西沢駒吉
同廿三日御達ニ付、暁三字頃弊藩一小隊、大野、津軽、福山兵隊、笹小屋ト申処ヨリ木古内口ヘ進ミ、津軽、大野先鋒、福山及弊藩ト右ノ方、沢口ニ撤兵ヲ布キ、無程先鋒ノ銃声相聞ヘ、御指揮ニ依テ福山、弊藩ハ津軽兵ノ右ニ出テ、賊ノ塁下ニ迫リ候処、暁霧漠々ノ中ヨリ、賊大砲小銃ヲ激発致候間、苦戦数刻ニ及候得共、応援ノ兵モ無之、且深霧ニテ地形ヲ難弁折柄、再ヒ御指揮ニ依テ、笹小屋ヘ帰陣ノ趣、隊長松崎辺ヨリ急報有之候、其節死傷如左
戦死 松崎辺隊銃士 今井由膳
同銃卒 桜井長三郎
伊藤荒蔵
熊谷菊三郎
久保田二太郎
軽創 斥候 氏家厳
銃卒 大石金五郎
出島伝太郎
同廿九日暁三字、当別村ヘ弊藩一中隊出兵ノ処、追々各藩兵隊繰込、整列ノ上矢不来野正面ヘ、五番六番隊撤兵ニテ馳登リ候、賊砲台ヲ厳重ニ相構ヘ、頻ニ発砲候得共、各藩何レモ奮戦ノ折柄、六番隊ノ兵士中山長次郎砲台ヘ先登、続テ五番兵隊左ノ方ヨリ進撃ニ及ヒ候処、賊狼狽イタシ、処々ノ胸壁ヲ棄テ敗走シ、富川野ニ於テ再ヒ砲台ヨリ発砲ニ付、一中隊応援可致旨、御指揮ニ依テ、総長尾見雄三、本陣軍事方新田主税、予備ノ八番隊ヲ指揮シテ尾撃ノ処、賊遂ニ致大敗候間、有川村迄進ンテ屯集仕候、其節死傷分捕如左
戦死 五番竹内学隊銃卒 中川小八
重傷 同銃卒 品川粂太郎
同銃卒 森谷弥助
三戸峰治
六番松崎数矢隊銃卒 石塚宇太郎
軽傷 五番竹内学隊銃卒 大越国吉
同銃卒 森田源治
越谷佐太治
原田音次郎
六番松崎数矢隊銃卒 村本勉弥
同銃卒 山本祐平
長谷川弥平
小林甚兵衛
分捕
大砲一門
弾薬六箱
胴乱十二箇
刀二口
脇差二口
馬上砲四挺
短施条銃五挺
槍一條
スナイドルパトロン二百発
合薬小二箱
大砲空丸六発
ミニユー丸五百発
ミニユー銃七挺
サハヘール四十六振
弾薬三千発
ゲベール剣十八振
六寸短銃四挺
馬一匹
鞍一脊
短銃一挺
サハフル十二振
同廿九日朝三字御達ニ付、弊藩糾武隊、奇兵隊当別村ヲ発シ、浜手先鋒ニテ矢不来野ヘ相進候処、賊数ケ所ノ胸壁ヨリ、烈敷銃発候得共、諸方ノ官軍一時鏖戦ノ勢、奮激猛戦致シ候間、昼十一字頃迄ニ、賊悉ク敗走致シ候ニ付、同所野合ヘ暫時休息、然処又々御指揮ニ依テ、富川村野砲台ヘ正面ヨリ進撃ニ及ヒ賊ノ敗潰ニ乗シ、有川村迄追討ス、其節死傷及討取分捕如左
戦死 奇兵隊銃士 新井田貞治
隊長蠣崎衛士従者 弥太郎
糾武隊小隊司令士 藤田荘七
重傷 奇兵隊銃卒 畑中権兵衛
糾武隊副長 田崎東
軽傷 奇兵隊副長 松前伊予
同銃卒 伊藤忠次
糾武隊銃士 水島栄蔵
同上 大崎進三
同銃卒 中村鉄治
同上 加藤吉蔵
分捕
鉄砲三挺七連砲
刀二口
馬五匹
施条砲弾丸十箇
剣三振
弾薬二箱
短筒三挺
胴乱一ツ
鞍二脊
二十四斤長砲一門
日ノ丸旗一流
赤標人旗一流
黄標人旗一流
討取
賊一人〈富川村ニ於テ、大野岩美斬殪シ、懐中ノ密書ハ、会議所ヘ差出ス〉
五月朔日御達ニ付、夕五字弊藩一小隊、備州藩、箱館府在住隊、大砲隊、同七重浜ヲ警備仕居候処、暁二字頃賊襲来、三面ヨリ烈敷発砲致シ候ニ付、暫時接戦候得共、暗夜殊ニ地形不便ニ依テ、追分マテ引揚候趣、軍事方福井淳蔵ヨリ急報有之、其節傷者如左
軽傷 軍事方 福井淳蔵
同三日御達ニ付、弊藩六番隊有川村ヲ発シ、兼テ追分ヘ出張ノ五番隊ト合兵、夜十一字七重浜ヘ着、五番隊ハ巡邏致シ候処、御指揮ニ依テ、一中隊不残撤兵ニ配リ候、無程賊三面ヨリ襲来、一隊ハ忽チ左ノ山手数ケ所ニ大篝火ヲ焼キ、七重浜民家ヲ放火致シ候処、又々賊兵後ロヨリ頻ニ発砲シ迫ル、殊ニ暗夜且地形不便ニ依テ、追分マテ帰陣之趣、軍事方青山荒尾ヨリ急報有之候、其節死傷如左
軽傷 五番竹内学隊銃卒 津田新太郎
戦死 六番松崎数矢大隊銃卒 上田三平
同十日夜御達ニ付、弊藩六番八番両隊、御軍艦豊安丸ヘ乗組、富川村ヨリ発シ、翌十一日暁四字頃、箱館後ロサフ川ヨリ薩筑先鋒ニテ上陸、賊ノ哨兵ヲ追払ヒ、続テ長州、弊藩上陸、険阻ヲ攀登リ候処、賊兵最早敗走、鶴岡町辺ニテ銃声相聞ヘ候間、直ニ八番隊進撃、各藩ト合兵、一本木柵外迄凡三丁程追撃、六番隊ハ七面山腹ニ予備仕リ、御指揮ニ依テ、一本木関門ヘ、八番隊ト合併厳備仕候内、昼十一字頃賊再ヒ守返シ、暫時奮戦、賊兵又々敗走シ、元津軽陣屋ヘ引退候、其節傷者及分捕如左
軽傷 米田幸治 八番松崎数矢隊小隊司令士
銃卒 小杉粂吉
六番松崎数矢隊軍監 枚田大衛
銃卒 長谷川弥平
分捕
大身槍一条
手槍一条
鋳形七挺
馬二匹
大砲一門
小銃二挺
大小砲丸筵包十八箇
陣笠五蓋
フレキドーシ廿九
ミニヘール一挺
槍二条
馬具一通リ
馬上砲一挺
胴乱一
六寸ツマリミニーユ一挺
弾薬七十発
同十一日暁五字、糾武、奇兵両隊、七重浜ヨリ山手桔梗野石川郷ヘ進撃之処、賊胸壁数箇所築立、烈敷拒戦イタシ候ニ付、短兵斫入可申旨、御達ニ依テ、正面ヨリ右之両隊一同奮戦之処、賊敗走、夫ヨリ五稜郭新道ニテ、各藩兵隊ト倶ニ致戦争候処、賊何レモ五稜郭ヘ逃去候趣、軍事方青山荒雄ヨリ急報有之候、其節死傷如左
戦死 奇兵隊銃士 富山刑部
同銃卒 松江宇八
浅野吉之亟
糾武隊銃卒 平尾民五郎
重創 奇兵隊々長 蠣崎衛士
糾武隊銃卒 谷梯卓平
軽創 同銃士 村山為三郎
青山兵馬
同銃卒 荻野伴五郎
分捕
十八斤大砲一門
施条砲二門
小銃十三挟
同日御達ニ付、暁二字弊藩一中隊藤山村ヨリ大川村ニ至リ、福山津軽ノ兵隊、長州大砲隊ト合シテ、同村ヨリ進軍、凡一里半許ニテ柳岱深林中ニ埋伏ノ賊銃ヲ犯シテ益進ミ、其間二町許ニテ、賊ノ砲台ト相対候処、有川口ヨリ出兵ノ長州兵隊幷弊藩ノ糾武、奇兵ノ両隊合進シ、朝五字頃ヨリ六字頃迄激戦中、長州ノ兵隊奮撃、続テ弊藩三四番隊抜刀ニテ、砲台ヘ衝入候処、賊辟易敗走致シ候得共、左ノ方胸壁ヨリ頻ニ砲撃候ニ付、再度及激戦、終ニ賊兵ヲ追崩シ、暫時休憩、其節軍事方明石廉平銃卒十余人ヲ率テ、亀田村ヘ及進撃候、其節又々賊兵繰出候ニ付、長州兵隊幷弊藩ノ三四番隊、交進大戦シ、水戸ノ兵隊、弊藩糾武奇兵隊ハ浜手、津軽兵隊ハ山手ヘ廻リ、弊藩三四番隊、長州兵隊ト諜シ合セ、急ニ五稜郭近辺ヘ相迫リ候処、御指揮ニ依テ、一旦休戦帰陣ノ趣、軍事方明石廉平、下国美都喜ヨリ急報有之候、其節死傷分取如左
戦死 四番佐藤男破魔隊銃士 下国禄之進
重傷 三番隊々長 阪本篤太郎
軽傷 南条小弁治
同銃士 吉井梅太郎
岡江権作
四番佐藤男破魔隊銃士 工藤采女
同銃卒 倉橋真弥
池田茂吉
同銃卒 菊池未五郎
吉田六郎
須藤郁右衛門
浅井保三郎
三番隊役夫 長作
四番隊役夫 倉吉
分捕
施条砲一門
同弾薬二十
小銃八挺
刀一口
尖弾八
散弾十二
大砲弾一箱
小銃弾一箱
同十三日夜御達ニ付、弊藩一中隊各藩ノ兵隊ト、桔梗野警衛仕候処、十二字頃賊兵一小隊許、深霧ニ乗シ襲来ノ由、兼テ差出置候斥候報知ニ付、戒厳相待候ヤ否、賊半町程迄逼リ候間、暫ク致邀撃候処、賊悉ク引去候趣、軍事方石毛達右衛門ヨリ急報有之候
同十六日御達ニ付、暁三字頃弊藩六番八番両隊、大森浜ヨリ進軍之処、元津軽陣屋ノ賊巣最早平定ス、猶御指揮ニ依テ、五稜郭口警衛仕候、右十一日、十六日両度出兵ノ儀、軍事方杉村矢地、池田弦衛ヨリ、一本木出張新田主税ニ急報有之候
右四月九日乙部揚陸ヨリ当月十六日迄、戦争ノ大概ニ御座候間、此段御届申上候、以上
五月
松前藩 尾見雄三