東京城日誌 第八
明治元年戊辰十二月
各国公使参朝概略
一前日三国公使ヘ、明日九ツ時〈西洋第十二字〉可参内之旨、外国知官事ヨリ、書翰ヲ以テ通達ス
一当日公使参朝之節、外国判官事一人宛、各国公使旅館迄被遣、公使同道ニテ参朝ス
但外国知官事、塀重門内ヘ掛リ、弁事塀重門外ヘ、外国判官事、公使下馬所迄出迎、公使并随従之士官、中仕切門内〈二重橋外〉ニテ下馬、同道之判官事モ亦同シ
附知官事始、掛リ諸役員、朝服着用
一知官事、弁事、判官事、公使ヲ休息之席ヘ誘引シ、議定、参与、出会ス
一賜茶菓程合ハ、外国判官事取計ヒ、配膳ハ給仕ニテ取扱フ
一各国公使相揃候段、知官事ヨリ非蔵人ヲ以注進
一輔相出会
一天皇出御
一伶人奏楽
一出御之旨ヲ知官事ヘ通達ス
一知官事公使ヲ誘引ス
但御入側ヨリ、御本間ニ至リ着座、訳官随従ス
一公使拝天顔
一公使名披露、訳官ヨリ輔相ヘ申述、輔相ヨリ言上ス
一公国使書ヲ奉リ、国王之命ヲ言上ス、訳官之ヲ述ヘ、輔相言上ス
一有勅語
一輔相勅語ヲ伝ヘ、訳官公使ニ告
一公使奉答ス
一訳官、公使ノ奉答ヲ輔相ヘ述、輔相言上ス
一公使随従ノ士官、進テ拝天顔
一随従士官名披露、前ニ同シ
一輔相、伝勅意
一礼畢リ、公使退ク、知官事、弁事、塀重門迄之ヲ送ル
一伶人徹楽
一知官事、議定、参与、高輪交接所ニ至リ、公使ヲ饗ス
十一月二十二日、伊太里国特派全権公使コントデラトール、コンシユルゼネラールロベッキ、船将ラツクリヱラ、士官コビアンキ、ボルレツチ参朝
公使口上書
我カ国王皇帝陛下之近傍ニ於テ、我ヲ特派全権公使之任ニ命シタル書翰ヲ陛下ニ献呈ス、我王皇帝陛下ヘ対シ、親睦ナル情誼之厚キヲ表セン事ヲ望ミ、我ヲシテ奏聞ナサシム、我ニ於テ実ニ無限之栄ト云フヘキナリ、日本国之盛大栄華ナル事、伊太利亜国ニ於テモ、能ク知ル処ニシテ、仁徳公照ナル皇帝陛下之政庁ヘ、懇親ノ深キヲ表シ、弥日本国之盛美宏大ヲ祈願ス
国書
天恵民望之伊太利王ウィクトールマヌエル第二世、盛威卓絶ナル我親友日本之御門ヘ
陛下英邁公平、総テ仁徳ヲ以テ、壮美宏大ナル日本国之威儀栄華ヲ盛ニセラル、ヲ見、陛下之政庁ニヲイテ、我等カ最懇親ナル情誼之厚キヲ、顕然表センコトヲ望ミ、是カタメ人選之上
陛下之近傍ニオヒテ、我特派全権公使ノ任ヲ充テシメンガタメ、レコーントウィクトルサリエテラトールヲ命シタリ、彼レハ貴族ヨリ出タルモノニシテ、事ヲナス着実、且能我ニ服事シテ、性質之賞誉スヘキコト、我ニ取リ大ニ信任スヘキ証ナレハ
陛下之厚意アル恩眷ヲ蒙リ
陛下政府之敬愛ヲ得ルニ至ルヘシ
将又日本ト伊太利亜ト、取極メシ条約ニヨリ、友睦之情誼、日ヲ逐テ愈厚キニ至リ、両国之人民ヲシテ、日々大益ヲ得セシムル等之事ニオイテ、聊カ尽サヽル処ナシ、依之コーントサリエテラトール、我ニ代リテ
陛下好意ニ、彼カ述ルコトヲ尽ク信用シ給ハルヘシ、就中両国之稗益ヲ盛ニシ、永世不易之交誼ヲ全フシ
陛下ニ対シ、敬恭之意深キヲ述ル時ハ、別テ信用シ給ハンコトヲ、我
陛下ニ希フナリ
紀元千八百六十八年五月十日
フロランス之皇宮ニオイテ
陛下之親友
ウイクトールマヌエル
勅答
貴国帝王安全ナル哉、朕常々貴国帝王健剛及両国交際ノ深カランコトヲ祈ル、此度貴国帝王ニ於テモ、其情誼ヲ厚クセンカ為、貴国ノ事務ニ通達セル、英俊ナル卿某ニ、其事ヲ委任シ、今又貴国帝王ヨリ、懇切ナル一書ヲ投セラル、朕深ク之ヲ喜受ス、朕平日両国ノ交情懇厚ナルヲ欲ス、今貴国帝王、卿ヲシテ其事ヲ任シ我国ニ在ラシム、朕必其能調熟スルヲ信ス、宜シク朕カ懇厚ナルノ深意ヲ亮察シ貴国帝王ニ之ヲ細告セヨ、朕又深ク卿ニ懇接ノ情ヲ尽スヘシ、能勉励尽力シテ、永ク其職ニ在テ、両国交際ノ永久不易ノ基ヲ立テン事ヲ希望ス
同日仏蘭西国全権公使メキシミヲウトリー、海軍総督テシアイー、同上等士官ツブリクアルマン、船将トルムネク、一等書記官モンテペルロー、二等同タシヱーデラパセクー、三等同ベアールン、一等通弁官シブスケ参朝
公使口上書
仏国日本トノ懇親友睦ナル交誼ヲ、猶厚フセンコトヲ願フノ証トシテ、余カ淑徳ナル主君仏国帝、其新任目代之吏ヲシテ、全権ミヽストルノ権アラシメンコトヲ望ミ、即
陛下近傍ニオイテ、其任ヲ充ルタメ余委任スルノ書翰ヲ、爰ニ
陛下ヘ拝呈スルハ、余カ大幸ナリ
余カ国帝之望ミニ従ヒ、両国之交際益厚キニ至ラン様、勉励尽力シ、国帝陛下偏ニ日本国之幸福ヲ祈ラルヽノ趣意ニ答ルノミナリ
陛下全国ヲシテ、静治平寧ナラシムル盛大之権ヲ掌握セラルヽニオヒテハ、海外トノ貿易ヲ盛ニ開カシメ、欧羅巴人之諸事ヲ安全ナラシメ、海外各国トノ交際、愈深キニ至ラシムルノ諸件ニオイテ、大ニ之ヲ補翼セラレンコト、余カ政府ニオヒテモ、確然疑ヲ容レサルナリ
只願クハ、余カ任セラレシ職務ヲ、容易ニ遂クル様
陛下余ニ厚意恩恵ヲ加ヘ給ハンコトヲ望ム
同国全権ミヽストルウートレーヨリ差出ス国書ノ写
天恵民望之仏蘭西国帝ナポレオン、淑徳英明ナル日本之
御門ヘ
日本并ニ仏蘭西国ト取結ヒシ懇親ナル交際之、益深カランコトヲ望ミ、両国ヲシテ一和セシムルノ条約ヲ、誠実ニ施行セン事ヲ意見鑑センカタメ、我今
陛下ト、直ニ通信ノ路ヲ開キ、我国抜擢中之一人ニシテ、我カ深ク信任スル、コンマンドールデレシオンドノールヲ帯有セル、オーチ、ジヨールヂ、マキシム、ウートレーヲ以、我カ国全権ミヽストル之職ヲ委任シ、陛下之近傍ニ差送ルナリ彼カ性質俊哲ニシテ、実地練磨之才力ヲ備ヘ、頗ル国務ニ勉励スル、総テ我依頼スルノ証ナレハ、必然
陛下之愛敬ヲ受クルニ至ルヘシ、是我允准シテ委任スル処ナリ、故ニ
陛下好意ヲ以テ、我ミヽストルヘ恩遇ヲ加ヘ給ヒ、総テ仏国遊歴之人及ヒ貿易ヲ営ムモノヽ身事并ニ其利益ニ関係セル事件ニ付、我カ方ヨリ申通スル事アリテ、彼ヨリ書信又ハ話上申述ルコトハ、総テ信用シ給フヘシ、就中尊位ノ幸福ヲ祈リ
陛下聖霊ノ高志貫達スルヲ願ヒ、両国ノ帝位ヲシテ、一和友睦ナラシメ、永久不易之交際ヲ全フセンヲ望ム等之事ニ付、彼申述ル事アラハ、別テ深ク信シ給ハンコトヲ、我陛下ニ希フ
遍ク人事ヲ管轄シ給フ、神明無限、恩恵祥福ヲ
陛下ニ降授センコトヲ希フ
陛下之朋友 ナポレオン
仏国帝陛下之 外国事務執政 ムーテイヱ
勅答
伊太里ニ同シ
同日和蘭陀国公使ポルスブルツク、書記官ケレインチース参朝
公使口上書
余カ尊敬スヘキ国主タル、和蘭国王陛下ノ委任状ヲ、日本皇帝陛下ニ捧ル事、余最栄トスル所ナリ、和蘭王国ト日本帝国トノ間ニ存保セシ和親交際ハ、既ニ二百五十年ニ余リ、和蘭王国ニヲイテモ、貴国ノ常ニ栄華ナルヲ知レリ、余自ラ十二年之間、其徴ヲ見聞セリ
皇帝陛下常々幸福ニシテ、当国ノ永ク栄華ナランヲ、余今真意ヲ以テ希望ス
国書
神ノ恵ヲ受ケタル和蘭王オランイナスサウハムリュキセンビユルフ上公等々々衛廉第三、謹テ我善良ナル兄友、全盛賢明ノ君主日本御門
帝王陛下ニ、我尊敬恭愛之微衷ヲ表シ并ニ我和蘭王国ト日本帝国トノ間ニ、古来相伝セル、親密懇篤ナル交誼ヲ保持シ、更ニ之ヲ隆盛増大ナラシメシコトヲ冀ヒ其証ヲ
帝王陛下ニ奉呈セントノ微志ヲ以テ、今般
帝王陛下ノ左右ニ、我ミヽストルレシテント職ヲ差出シ置クヘキニ決定シ、之ニ依テ和蘭勲級獅子会ノ顕員ド〇デ〇カラーフフアン〇ポルスブルークヲ、此職ニ抜擢仕候、就テハ右ポルスブルーク儀ハ、此書翰ヲ持シテ帝王陛下ニ拝謁シ帝王陛下ノ御手ニ捧ケ奉ルノ光栄ヲ荷ヒ可申ト奉存候、抑右ポルスブルーク儀ハ、才能行儀衆ニ勝レ、職ヲ奉シテ怠ラサルコトヲ、兼々洞知罷在候事ニ御座候ヘハ、此度申付候役儀ヲモ、必遺失ナク相勤メ帝王陛下ノ叡慮ニモ相叶候様ニ、精勤可仕ト相察申候間帝王陛下ニモ、無御隔意御待遇被成下且私ヨリ兼テ申付置候条例ニ基キ帝王陛下ヘ申出候件々ヲ始トシ、凡我誠実ノ心情ヲ以テ帝王陛下ノ御為、御政道ノ御利益、日本国泰平全盛ノ御為筋等ヲ申上候節ニハ、殊更御信用被成下度奉希候、其他皇天上帝ノ帝王陛下ヲ愛護寵眷アラン事ヲ黙祈シ奉リ候而已、干時千八百六十八年第七月十八日、海牙ノ王宮ニ於テ認ム
帝王陛下ノ良友悌弟
自記 衛廉
外国事務宰相
自記 ルースト〇ファン〇ソムビュフ
勅答
勅答伊仏ニ同シ
同月二十三日英吉利国公使シルハリヱスパルケス、アダムス、ミトフオルド、ガワ、フレチヤ、サトウ、ウイリス、海軍ケピテン、ステンホップルーシモント、コルスワル、マレイ、マテン、ウヱブ、スミス、フオルサイス、ウイトレイ、陸軍コルネル、ノルマン、バテ、カー、ブリンクレ参朝
公使口上書
我主君タル英国皇帝安全ナリ
陛下、我皇帝之事ニ付、厚キ勅諭アリ、我皇帝ニ於テモ、定テ喜悦スベシ
陛下勅諭之通リ、幸ニ是迄在来両国之交際永久ナラン事、我皇帝モ希望スル所ナリ
陛下今般東京御着輦之事ヲ拝祝ス且又主土不残鎮静之折柄
陛下御仁政、且国内之衆議ヲ以テ、此以後改テ強大同一、泰平ナラシメン事ヲ願フ、将又余之儀ニ付、懇篤之勅詔、深ク感謝スル所ナリ貴国之朝廷ニ於テ、洪恩深キ我皇帝之公使職ヲ勤ムル事、是又欣然無相違所ナリ
勅答
貴国帝王安全ナルヤ、朕常ニ祈ル、貴国帝王健剛及両国交際ノ益深カラン事ヲ、朕今東京ニ臨ミ、親シク公使ニ遇フ、蓋両国之交際益親厚永久ナラン事ヲ欲ス、宜ク此意ヲ亮察スヘシ、且公使無恙職ニ在リ、亦朕ノ深ク喜悦スル所也
同日亜米利加国公使ウワルケンホルブ、船将カルトルプロウン、領事官総栽ストール、書記官ボルトメン参朝
公使口上書
合衆国大統領、日本帝国ニテ亜米利加合衆国政府之代人タル事ヲ、余ニ任セシ時、是迄之両国和親交際ヲ存保スヘキ命ヲ受ケタリ、第一ニ日本ト条約ヲ取結シハ合衆国ニシテ、右ハ合衆国政府ニ於テ、当帝国及其政府ノ幸福ヲ前進スルニ最益アルモノト考フ、余当国ニ来着セシ以来世界中之最大ナル蒸気商船ニテ、両国之間ニ月々通信スルニ因リ、両国之益尚接近セルニ至レリ、其益既ニ増シ、且国ニ大ナル財勢ヲ開キ、分明開化スルニ従テ連続スヘシ、両国之間ニ今存スル交際ヲ、尚懇篤ニセン事、且両国之間ニ、速ニ生スル大ナル益ニ尽力スル事、常々余カ職掌ニシテ、之レ最希望スル所ナリ、余カ政府ニ代リテ、当今ノ太平及幸福ヲ
皇帝陛下ニ敬賀ス、日本全国全ク静謐シ、太平幸福ヲ全フスル期、速ニ来ランヲ祈ル
勅答
貴国大統領安全ナルヤ、朕常ニ貴国平穏ニシテ、両国交際ノ益深カラン事ヲ祈ル今東京ニ臨ミ、始メテ公使ニ遇ヒ、益両国交際盛大ニシテ、万里比隣ノ思ヲナセリ、宜ク此意ヲ亮察スヘシ、且公使無恙職ニ在ル、朕ノ深ク喜悦スル所也
同日孛漏生国公使フホンブラト、書記官ケンプルアン参朝
独乙北部聯邦公使口上書
一我孛国、日本国ト懇親ヲ結ヒシ以来、公使実ニ今日始テ日本国
皇帝陛下之
天顔ヲ拝スルヲ得ル、何ノ福カ是ニ過キン
一此時ニ因テ、我孛国皇帝陛下ノ日本皇帝陛下ヘノ懇親ナル情願ヲ、外臣フオンブランドニ因テ通スルヲ得ルハ、皆外臣之幸福ナリ
一我孛国皇帝陛下ハ、日本国
皇帝陛下ニ、其親睦ノ情思ヲ徴センガ為メ、正ニ新条約ヲ結ンテ、以愈両国ノ交ヲ厚フセント願ヘリ
一外臣フオンブランド公事ニ勉励シ以テ
皇帝陛下ノ親信ヲ賜ランヲ欲ス、是志願ナリ、仰
皇帝陛下ノ聖察ヲ請フ、若シ然ラザルトキハ、外臣独逸北部聯邦ト日本国トノ幸福ノ為メ、公事ヲ務ル能ハサルベシ
勅答
貴国帝王安全ナルヤ、朕常ニ貴国帝王健剛及両国交際ノ深カラン事ヲ祈ル、今東京ニ臨ミ、始テ公使ニ遇フ、益両国交際永久ノ為ニ新条約ヲ結ヒ、親睦ヲ厚クシ且公使ニ懇接ノ情ヲ尽サント欲ス、宜ク朕カ此意ヲ亮察スヘシ、且公使恙ナク職ニ在リ、亦朕ノ深ク喜悦スル所也